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本:エリカ:小池真理子

久しぶりの読書一冊目は、小池真理子さんが2003年から約一年半、婦人公論で連載していた小説「エリカ」。

急逝した親友の告別式の夜、その不倫相手と、二人で飲んだのをきっかけに、エリカは、いつしか彼との恋愛にのめり込んでいく。逢瀬を重ねていった先には何が……。高ぶるほど空虚、充たされるほど孤独。現代の愛の不毛に迫る長編。 「裏表紙」より

 

わたしが小池真理子さんの小説を読むようになったきっかけは母の影響で、かろうじて読書を嗜んでいた20代の頃の記憶には小池真理子さんの作品はどれも面白いという印象があったはずなのですが、こちらを読み終えた率直な感想は、しんどくて息苦しい本を選んでしまったというところ。

とはいえ、ブログに感想文を書くという観点からすれば、ツッコミどころ満載なこちらの作品を選んで良かったという気もします。失礼すぎですみません。 

 

書評

物語は、アラフォーの独身女性である主人公エリカが、親友蘭子とW不倫の関係にあった湯浅竹彦と、蘭子の告別式で出会ったところからはじまります。

あろうことか、この男は告別式のあったその日に、エリカを飲みに誘い、口説きにかかります。ゲスの極みですね。そんな湯浅に苦言を呈し、警戒するエリカですが、41歳の誕生日に401本の薔薇の花束を贈られたことをきっかけに一気に距離を縮めていきます。

 

この時点で二人きりで会ったのは告別式の一度だけ。

 

 

 

いや、ないわー。

もう正直、この段階で本を閉じようと思いました。普通ドン引く場面ですよ。枯れたときどうしたらいいの?

薔薇の花束事件からさほど多くないデートを重ねたのちに、二人は深い関係になります。そこへたどり着くまでの湯浅のアプローチは真っ直ぐで、少女漫画でも発せられない歯の浮くような台詞ばかりでした。

 

困った

あなたに本気で恋をしてしまった

 

5分でいい

おやすみのキスがしたいから

 

 

 

渋谷系メンズ浴衣のキャッチコピーかと思いましたy

いや、わたし、小池真理子さんの作品、好きなんですよ。数年ぶりの読書の記念すべき一冊目に選ぶくらいに。

 

ところがエリカはそんな湯浅にどんどんハマっていきます。理屈っぽいこじらせ女子ほど陥落してからの展開が早いよねパターンです。しかし、その高ぶる感情は同時に、湯浅への疑心と充たされているはずなのに充たされていないと感じる孤独の渦へとエリカを落としていきます。

そしてそれは、湯浅の「愛してるよ」という言葉によって、よりはっきりと輪郭を描くようになっていきます。

湯浅と会い、湯浅の愛を確認し、愛してるよ、と言われれば言われるほど愛されていないような気分にかられていく

 

ここからは本当に読んでいて息苦しい場面の連続となります。 

湯浅にとってエリカとの関係は蘭子とのそれと変わらない戯れにすぎなかったのに対して、エリカが湯浅に求めたものは自分が湯浅に向けるのと同じ熱量の愛でした(エリカは常に心の中でそのことを否定しているけど…)。

そのためにエリカは些細なことで荒波を立てるようになり、対する湯浅は少しづつ、疲れた様子を見せるようになります。

結論として、二人の関係は一年も経たないうちに終局を迎えます。常識的に考えてみて、W不倫をしていた相手の告別式に、その親友のアラフォー独女を口説くような男が相手なので、当然といえば当然ですね。

でも、もちろん。小池真理子さんはそんなことを言いたいわけじゃないんです。

 

読みどころ

物語の流れそのものには引き込まれるところが(わたしは)なかったのですが、ここまで話題に挙げてこなかった二人の登場人物をとおして透けて見えるものが読みどころに思います。

 

 一人目はエリカの母。68歳になった今も十年以上の付き合いの恋人と甘い関係を続けている姿は、充たされない愛に苦しむエリカと対照的な存在として描かれていました。エリカに恋人との人生初めての海外旅行の感想を語るシーンなどすごく素敵でした。 

二人目はエリカの部屋に盗聴器を仕掛け、エリカと湯浅の関係をありのまま知る近所のバーガー屋の青年。物語の山・キーパーソンとなりそうな人物設定ではありますが、エリカと湯浅の関係を、口にしてしまった途端に誰にも伝わらないようなエリカの心情を、絶対的な第三者の視点から語りたかったために登場させたように思いました。

誰かのことをほんとに好きになった時、好きって表現できなかったり、誰かが自分のことをほんとに好きになってくれた時も、その人の気持ちが伝わってこなかったり。うまくいかないんですよ(略)それなのに、なんとなくにこにこして、ふだん通りにつきあい続けて、そのうち、つまんないことでギクシャクし出して、気がつくと、本当にあったはずの愛も消えちゃってたりする

 

この「愛し愛されたりってどういうことなのだろう」そういうことをテーマに描かれている作品が小池真理子さんの作品には多かったように思いますが(記憶が曖昧なので他の作家さんとごっちゃになっているかも)、母親になってから読むとまた感じるものがちがうことに気付かされた作品でした。